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ブスでも香りで光源氏の妻に

日本に香料が伝来し、使われたのは六世紀末、仏教儀礼用としてだ(参考:山田憲太郎著『香料』)。それが『源氏物語』のできた十一世紀初めには仏教から切り離され、特権階級の贅沢となった。末摘花は、ブスでも貧乏でも光源氏の妻となる、高貴な資格をもつ女であることが、香りで表されているのである。のちに明るみで末摘花を見た光源氏は、象のような鼻と腫れた額と骨張って痩せたその体に、目がクギづけになってしまうが、その時も、若い女の装束としては不似あいな毛皮の上着には“かうばしき”香りがちゃーんとたきしめてあった。そして、下手な歌を添えて光源氏のために悪趣味な元旦用の装束を贈ってきた際も、歌の書かれた厚ぼったい紙を“匂ひばかりは”深くたきしめていた。元旦用の装束を用意するのは正妻の役目。この時、光源氏には左大臣家の葵の上という正妻がいるのだから、ずいぶんな無神経ぶりである。しかしそんな時すら、無粋な厚紙は芳しかったというのだ。末摘花はいつでも香りだけは最高だった。貧しくとも薫物にかける費用だけは惜しまない。父祖伝来の高価な薫物だけは切り売りしない、根っからの貴族だった。が、貴族の嗜みといえば、ほかにも和歌とか書とか色々あるのに、『源氏物語』作者の紫式部がよりによって「香り」を選んだのは、興味深い。末摘花がもしも「貧乏+ブス+歌がうまい」というキャラクターであったなら、光源氏は果たして彼女と寝ただろうか。「貧乏+ブス+極上の香り」だからこそ、彼は彼女とセックスに及び、果ては妻のひとりにしたのではないか。
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